統合報告書 2026

Corporate StrategyCOO/CSOメッセージ

佐藤 浩一郎の写真

精緻な技術でヘルスケアの未来を切り拓くリーダーとなり
ステークホルダーの「ジョイスパン」を最大化する

佐藤 浩一郎
PHCホールディングス株式会社
代表取締役副社長
最高執行責任者(COO)
最高戦略責任者(CSO)

1. 「中期経営計画2027」の1年目を振り返って:
持続的成長への確かな手応え

「中期経営計画2027」の 1年目を終えた2025年度は、「収益基盤強化のための構造改革」「ポートフォリオ管理強化」「診断・ライフサイエンス領域への注力」という3つの重点施策が、想定通り着実に進んでいるというのが全体の総括です。

私たちは2030年に目指すべき姿の実現に向け、2027年度までを成長に向けた基盤構築を行うフェーズ 1、2030年度までを持続的な成長の実現を目指すフェーズ 2としており、現在はフェーズ1に取り組んでいます。単なるコスト削減にとどまらず、仕組みとして戦える「筋肉質な組織」にしていくための一つのピラー(柱)を築けたことが、1年目の成果と考えています。

重点施策1. 収益基盤強化のための構造改革

一つ目の重点施策である「収益基盤強化のための構造改革」は、グループ横断でコストと拠点・組織の最適化に重点を置き、2027年度までの 3年間で80億~ 120億円の収益改善を目指すものです。2025年度の実績としては約 31億円の改善効果を出すことができ、順調にマイルストーンを刻んでいます。

この成果は、各ドメインにおいて取り組みが進んだ結果です。「糖尿病マネジメント」ドメインにおいては約9億円の改善効果を出しました。これまで複数拠点に分散していた包装作業を1箇所に集約するとともに、外部に委託していたパッケージング等の作業を内製化し、資材の価格交渉も実施しました。倉庫の統合や顧客への輸送ルートの最適化、製品プラットフォームの共通化による設計・製造・調達の効率化も原価低減に寄与しています。

「ヘルスケアソリューション」ドメインでは約 6億円の改善を実現しました。LSIメディエンスの検査に使用する試薬・消耗品のサプライヤー変更・集約や競争入札の実施、ウィーメックスのハード機器におけるサプライヤーの切り替えなど、調達の最適化を推進しました。加えて、拠点の移転・集約による固定費削減や構造改革も進めています。

「診断・ライフサイエンス」ドメインでは、約 16億円の改善を達成しました。病理事業においては内製化や工程改善により製造コストを削減しています。またバイオメディカ事業(現:ライフサイエンス事業部)では、材料の仕入れ先変更や廉価材への切り替えを行ったほか、国内販売組織の統合や海外のバックオフィス共通化等、組織の適正化により固定費削減を実行しています。

これらの構造改革で意識しているのは、単なるコスト削減で終わらせず、仕組みとして戦える形にしていくことです。縦割りだった組織に横串を通し、グローバル規模でのスケールメリットを効かせる「スマートスペンディング」のプログラムを作りました。まずは間接材の購入を中心に各事業部が均質的なメソッドで取り組むことで十分な削減効果が得られており、今後は直接材の調達へも対象を広げていく計画です。このように、私たちの強みを最大限活用し、より筋肉質にしていく仕組みが動き始めていると評価しています。

重点施策2. ポートフォリオ管理強化

二つ目の重点施策は「ポートフォリオ管理強化」です。当社グループは成長性とROIC(投下資本利益率)を基軸に置きながら、各事業の位置付けを明確にし、選択と集中を戦略的に進めています。

まず、継続投資で成長を牽引する「成長事業」の PHCbi(現:ライフサイエンス事業部)では、細胞・遺伝子治療(CGT)領域やライフサイエンス領域への投資を実行し、中長期の成長基盤構築に注力しています。次に、戦略的に投資を実行し成長事業に育てる「育成事業」ですが、CGM(持続血糖測定)事業の譲渡を実施(後述)、エプレディアにおいては製造部門の収益性を改善しつつ、デジタルパソロジーへの投資を実行しました。また、PHCbiとPHC IVDを統合し、ライフサイエンス事業部として国内営業組織の一体化と合わせ組織が整理され、リソース有効活用などのシナジー効果が発揮できる形への再編が進んでいます。

既存の事業基盤を強化し、安定的な収益を維持する「基盤事業」である糖尿病マネジメント事業は、欧州でのシェア獲得と米国での単価向上施策、オペレーションの効率化により収益性が向上しました。

ウィーメックスは、クラウド製品の市場投入や医療DX需要の取り込みを進め、ウィーメックスヘルスケアシステムズ(WHS)との事業統合と構造改革によるキャッシュ創出力の強化に努めています。そして、外部連携・資本の活用を含めて事業再構築を検討する「再構築事業」のLSIメディエンスは、収益性が改善し、 ISO認証の再取得も完了して再構築が進んでいます。メディフォードについては、今期、経営体制を刷新するなど事業基盤の見直しを進めています。

この中で最も大きな動きとなったのが、育成事業に位置付けていたCGM事業の譲渡です。昨年の統合報告書では、CGMの販売を強化するとお伝えしており、一昨年発売した「Eversense® 365」は独自性の高い製品として、ユーザー数も増加傾向にありましたが、当初想定していた水準には達していませんでした。ポートフォリオ管理強化プロセスの一環として投資効率を検証した結果、成長を実現するためにはさらなる投資が必要であり、収益が上がるまでに要する時間やコストを勘案した投資効率が我々の期待に見合った形ではありませんでした。また、当社の糖尿病マネジメント事業が病院や薬局に提供するマス向けのビジネスであるのに対し、CGMは体への埋め込み(施術)が必要であり、お医者さまや患者さんと直接やり取りをするという高度な専門体制やインフラが求められ、当社の既存のビジネスモデルとは大きく異なります。これらの観点を総合的に検討した結果、Eversense 販売事業をSenseonics社に譲渡し、開発、製造から販売まで一貫した体制とすることが、事業の価値を最大化でき、当社にとっても投資効率の観点から最善であると判断し、譲渡を決定しました。これにより連結全体の収益性の改善が図れました。

重点施策3. 診断・ライフサイエンス領域への注力

三つ目の重点施策は、当社グループの強みである精緻な技術を活かす「診断・ライフサイエンス領域への注力」です。私たちは、2030年以降に目指す姿として、「『より的確・早期・簡便な』がん診断を実現するイノベーター」になること、そして「がんの先端治療法の早期普及を実現するアクセラレーター」としての役割を果たすことを掲げています。

この目標の実現に向け、「中期経営計画 2027」のフェーズ 1(2027年度まで)では事業基盤の強化、フェーズ 2(2030年度まで)ではドメインソリューションの創出、そして2030年度以降は新規事業によるソリューション拡大というアプローチを描いています。2025年度は、事業基盤の強化として製造拠点の最適化を行いました。例えば、これまで英国で行っていたエプレディア製品の組み立て作業を、工場として35年の歴史を持つPHCインドネシアに生産移管し、コスト競争力と供給安定性の両立を図りました。そして、中国における国産優遇施策への戦略的対応として、CO2インキュベーターの生産の一部をインドネシアから中国拠点へと移管し、中国市場での売上拡大に貢献する体制を整えました。

また、次世代新技術の研究開発を担うR&Dの強化にも着手しました。2025年 7月にドメインの R&Dを担う「診断・ライフサイエンスドメインR&D」を設立しましたが、2026年 4月からはPHCグループ全体の技術開発を担う「コアテクノロジー研究所」へと拡張しました。本研究所は「Healthcare with Precision - Invent the Core, Create the Future.(技術の核を創り、精緻な技術でヘルスケアの未来を切り拓く)」をスローガンに掲げ、より広い視点で技術革新を進めます。診断・ライフサイエンスドメインへの注力を続けながら、長期的には糖尿病マネジメントドメインやヘルスケアソリューションドメインにも研究領域を拡張し、将来的には各事業に貢献するコーポレートR&D組織として、グローバルな視点で開発拠点を構築し、全事業領域にまたがる開発を推進することを目指します。すでに東京科学大学との共同プロジェクト等も進んでおり、外部との連携を強化することで開発スピードを加速させています。

佐藤 浩一郎の写真

一方で、成長領域を伸ばしていく上での課題も認識しています。事業基盤の「守り」の部分は着実に進展していますが、「攻め」である新しい領域への展開には難しさも伴います。特に細胞・遺伝子治療(CGT)関連では製品群を強化していますが、お客さまは既存製品と重なりがあるものの、求められる専門知識は異なります。既存製品とは異なる分野で専門家と対等に会話し、なおかつ製品特性上、自社製品の専門的な知識や技術力を活かした提案を行える「技術営業」の強化が不可欠です。お客さまの購買意欲に直接影響を与える、いわゆるラストワンマイルの販売体制を強化しつつ、政策影響でアカデミアの予算が限られている米国の市場環境が再び追い風となるまでの期間をどう戦略的に乗り切るかを見極めながらの事業展開が求められます。

2. COO/CSOとして:
戦略と実行の連動、そして地政学リスク・AI時代への対応

私は現在、COO(最高執行責任者)とCSO(最高戦略責任者)を兼任し、経営戦略、事業開発、医療政策を統括するとともに、製品製造、品質管理、調達の各機能を担っています。ここで特に重視しているのは、策定した戦略が「絵に描いた餅」で終わらないよう、戦略と執行に関する部門の連携を深め、実行精度を高めていくことです。立てた戦略の実行という、当たり前のことを粛々と進めていくことに変わりはありません。ただ、中計1年目の 2025年度は若干守備に重心がありましたが、中計2年目となる2026年度は、次期中計での攻めのスタートダッシュに備え、「重心をフラットにする」ことを意識し、各事業の成長施策に投資とリソースを配分するなど、「攻め」への準備を着実に進めたいと思います。

佐藤 浩一郎の写真

COOとしての取り組み:
地政学的リスクへの 対応とモノづくり強化

グローバルに事業を展開する当社グループは、地政学と地経学の両面で大きな影響を受けています。米国における関税問題やホルムズ海峡情勢に起因する輸送コストの上昇、さらにはナフサ高騰によるプラスチックやウレタン類への波及など、さまざまなリスク要因が顕在化しています。国内でも、CRO事業における熊本の研究施設に必須な空調用重油が一時入らなくなるという事態がありました。その際はいろいろなところに声をかけて供給を工面し危機を脱しましたが、サプライチェーンをどう構築していくかが大きな課題になっています。複数拠点を持つことのメリットを活かし、戦略的にサプライチェーン全体を考えていく必要があります。

CSOとしての取り組み:DX/AIの強化とビジネスの高度化

一方、CSOとしては、生成AIの黎明期において、まず何よりも乗り遅れないことが重要だと考えています。そこでまず、業務効率化と一人ひとりの生産性向上のため、全社員にMicrosoft社が提供するAIアシスタント「Copilot」をPHCグループの標準AIツールとして導入しました。同時に、社内でAIによる課題解決を増やすため、事業開発部のエンジニアがメンターとなり、各事業部(BU)の困りごとをAIで解決する社内プログラムを推進しています。昨年は5名が修了し、AIエンジニアとしての認定を得て社外でのオペレーションでも活躍し始めています。将来的には、当社グループの製品ポートフォリオの中にAIを組み込んだサービスを提供すべく、ドライブをかけていく方針です。

AI時代において真の優位性となるのは、AIそのものではなく「質の高いデータを保有していること」、そして「AIが出した結果をプロとして正しく判断できる人財がいること」です。当社グループには蓄積されたデータと高い専門性という強みがあるため、これらをAIで繋ぎ合わせることで、新たな価値やビジネスを創出できると考えています。

3. 次なる成長に向けた助走:
2026年度の事業目標と「事業アーキテクチャ」の変革

2026年度は、引き続き3つの重点施策を中心に「中期経営計画2027」を着実に実行していきます。業績面では、構造改革やポートフォリオ管理強化の改善効果が着実に現れており、収益性が大幅に向上する見通しです。同時に、次の3年の中計で「成長はどこで作るのか」を見据え、「ここで成長する」と導ける形を作っていくことが課題です。

各事業の目標としては、まず糖尿病マネジメント事業において、先進国での安定基盤を継続させ、市場の縮小に応じた組織のスリム化とオペレーション効率化により、安定したキャッシュ創出力を維持していきます。CGM事業の譲渡によりBGMに集中することになりますが、当社グループの持つマーケットアクセスや強みを活かし、立ち止まることなく次なる成長機会の模索も進めていきます。

臨床検査事業では、価格向上や遺伝子関連分野の強化によりさらなる収益改善を図ります。また、 CRO事業では受注活動の強化により稼働率の改善を目指します。

ヘルスケアITソリューション事業については、世の中のクラウド化や政策の流れを捉え、2025年度に発売したクリニック用クラウド型・レセコン一体型電子カルテ「Medicom クラウドカルテ」の拡販に加え、調剤薬局向けのクラウドシステムの開発も進めていきます。現在の日本の医療制度は治療中心ですが、今後、社会の関心は予防医療へ向かっていくと見ています。デジタル活用によって個々人に合わせた予防医療が実現可能となってきた今、この流れを好機と捉え、健康経営を支えるサービスを新たな成長の柱に育てたいと思います。

病理事業においては、これまでのスライドガラスや試薬といった消耗品中心のモデルから、スキャンデータをアーカイブしAIを活用していくデジタルパソロジー領域への変革が非常に重要になります。この成長市場へ向けた営業・マーケティング組織の一新や、新製品の投入、生産体制の最適化といった改善を継続します。

佐藤 浩一郎の写真

そしてライフサイエンス事業では、新たに統合した組織力を活かし、自動培養装置「LiCellGrow™」やライブセル代謝分析装置「LiCellMo™」によって細胞・遺伝子治療領域の売上を拡大させるとともに、体外診断薬や機器の拡販を進めていく考えです。

これらを進める上で全社的な課題と考えているのが、ビジネス全体のアーキテクチャ、設計の刷新です。私たちはこれまで、『製品が良ければ売れる』時代を歩んできましたが、現在マーケットの付加価値はソフトウェアやデータへとシフトしています。優れた技術を確かな収益に変え、顧客価値へと昇華させていく。この市場価値から逆算して一気通貫でビジネスを組み上げる組織力を強化することこそが、次なる成長には不可欠なステップであると考えています。

4. 2030年に向けた展望と読者へのメッセージ:
「ジョイスパン」の共創

昨年は、持続可能性とイノベーションを両立させ、ベースを大事にしながら新しいテクノロジーを取り入れるというお話をしました。その持続可能な成長を目指すというベースラインは変わっていません。

その上で、近年、米国の老年学者であるケリー・バーナイト氏が提唱する「ジョイスパン(Joyspan)」という概念に注目しています。これは、日常生活における小さな喜びや人とのつながりの中で「心が豊かさを感じている時間」、すなわち精神的な幸福寿命を延ばすという考え方です。当社グループはこれまで、健康寿命の延伸(ヘルススパン)を視野に入れて事業を展開してきましたが、身体的な健康だけでなく、心が満たされて初めて、真の豊かさが実現できると考えています。これからは、グローバルヘルスケア企業として、いかに人々の「ジョイスパン(幸福な期間)」を最大化できるかという新たな挑戦が重要と認識しています。

幸福な期間を延ばすポイントとして、自分の心地よい場所やコンフォートゾーンを抜け出して成長すること(Grow)、社会や人とつながること(Connect)、環境に適応していくこと(Adapt)、そして与える人であること(Give)の 4つが挙げられています。これらは当社グループが掲げる4つの価値観、「好奇心」「実行する勇気(成長・適応)」「個の尊重と共創(つながり)」「高い倫理観」とまさに合致しています。

我々のステークホルダーである医療従事者の方々は、長時間労働をはじめとする過酷な環境下で尽力されています。医療従事者やお客さまをはじめとするステークホルダーの皆さまのジョイスパンを延ばすためには、まず私たち自身がその重要性を深く理解し、心にゆとりを持って向き合う必要があります。社員一人ひとりがコンフォートゾーンを抜け出し、自己成長を果たすこと。そして、チームで共創し、変化に適応しながら顧客へ価値を還元(Give)し続けること。この取り組みの連鎖と社員の働きがいこそが、次なるイノベーションを生み出す源泉になると確信しています。

PHCグループは、まずは社員からその輪を広げ、ステークホルダーの皆さまに、心の豊かさを感じる時間、すなわち「ジョイスパン」を提供し続ける企業を目指してまいります。引き続きご期待とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

佐藤 浩一郎の写真